B:森の衝角 ラムへッド
コザマル・カは水辺が多いから、ハンマーヘッドダイルみたいな肉食ワニが多く棲息してる。ラムヘッドは、その近縁種だね。外見の特徴はよく似てるけど、はるかに大きく成長し、力も段違いに強い。頭を衝角みたいに打ち付け、獲物を昏倒させ丸呑みにするんだ。人や家畜の被害も後を絶たなくて……
見かけたなら、全力で仕留めてもらいたい。みんなの安全を護るのが、僕らの役目なんだからね。
~ギルドシップの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
オルコ・パチャから流れてくる湧水や雪解け水が大瀑布となって注ぐことにより生まれる虹が地名の語源になるほど水に恵まれた密林地帯であるコザマル・カには大小様々な川が流れており、至る所に湖や湿地帯が出来ている。そうした水辺は森に生きる動物たちの水飲み場になっていて多くの生物が集まる。そのためそうした水辺には大抵、水を飲みに来た動物を狙う肉食の水生生物も集まってくる。
そうした生態系はここコザマル・カでも変わらない。
あたしは木の枝に縄を縛り付けただけの釣竿を持ち上げて、釣り糸替わりの縄に丸太に他のついた木の枝をつけ小ぶりなハヌハヌ族に似せた疑似餌を付けるとそれを川に投げ込んだ。
「こんなので釣れるんかな?」
相方が眉をハの字にして言う。
「失礼ね。真に迫る出来なんだから大丈夫よ」
濁流に浮き沈みするハヌハヌ人形がワニたちの食欲をそそること間違いない。あたしは鼻を鳴らして相方をチラ見した。
コザマル・カの水辺で数多く確認されるのはハンマーヘッドダイルだ。ハンマーヘッドダイルは、ようは大型のワニなのだが、通常のワニとは目玉の位置が異なり、口の先端に目玉が付いている。そのため頭の形状がハンマーのようになっているためこの名で呼ばれている。そのハンマーヘッドダイルの近縁種にラムヘッドと呼ばれる種がいる。見た目はハンマーヘッドダイルとほとんど変わらないが、大型のワニであるハンマーヘッドダイルよりはるかに大きく成長し、その体の大きさに比例して力も強い。巨大で堅い頭部で獲物を殴打して、動けなくなったところを捕食するのだそうだ。非常に生息数が少ないため、本来、滅多な事では出会わない種なのだが、最近ハヌハヌの里の比較的近くで頻繁に目撃されていて、ハヌハヌ族や家畜への被害が後を絶たないという。更に都合が悪いことに、ハヌハヌ族の伝承によればこのラムヘッドは「川の浅瀬の神」とされており、もし遭遇して狙われても、それは自分が神への供物に選ばれたという意味なので捕食に対して抵抗してはいけないと言い伝えられていることだった。
「何とも理不尽な話よね」
あたしは川岸に腰掛け、自分の膝に肘をついて頬杖しながらギルドシップで聞いた話を相方と反芻して言った。
「神様を倒してもいいん?」
横に座っている相方が聞いて来た。
「だからあたし達が狩るの。あたし達はハヌハヌじゃないから関係ないしね」
あたしはちょっとだけあくどい顔をして答えた。
それから2時間が経った。濁流に翻弄される疑似餌はいつしか付けた葉っぱも流されほとんど丸太そのままの姿になっていた。
「やっぱり無理なんじゃ…」
忍耐が限界に達し相方があたしに言ったその瞬間だった。濁流に揉まれる丸太のすぐそばの水面がこんもり持ち上がったかと思うと水中から巨大なハンマーヘッドダイルが飛び上がった。
「きたーーーー!!」
あたしがほれ見たことかと歓喜の声を上げた。
「うそ!釣れた~~⁉」
相方は目を皿のようにして驚いている。
飛び上がったラムヘッドは空中で体を半分捻ると落下の勢いに合わせ、その頭部で丸太を殴りつけた。体重と首の力で叩かれた丸太はその真ん中あたりで砕かれ飛び散った。
ラムヘッドは飛び散った丸太の欠片を素早く追いかけると口に頬張ったが、すぐに水面から顔を出してペッと吐き出しながら首を振った。
「こっちに来い!」
あたしはそう言うと杖を振った。杖の先から雷球が飛び、ラムヘッドの鼻先で弾ける。ほとんどダメージは無いだろうがラムヘッドの神経を逆撫でするくらいの痛みはあるはずだ。
案の定、ラムヘッドは唸り声をあげると猛然とあたしの方に向かってくる。
あたしはニヤッと笑うと上目遣いにラムヘッドを睨んだ。
「来なさい。体中の皮引っぺがして売り払っちゃうから」